Vol. 1 2013年 1/26 「患者さんのための天疱瘡セミナー」レポート

Vol. 1 2013年 1/26 「患者さんのための天疱瘡セミナー」レポート

 

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天疱瘡セミナー (2013・1・26 於 慶應義塾大学病院)

講師:慶應義塾大学皮膚科 天谷雅行先生

 

 

講演会メモ Hさん、Mさん

 

はじめに

本日の会は患者さんから提案された天疱瘡の初めてのセミナー。

これを機会に今後患者間でのネットワークができたら良い。

 

アメリカには大きな患者中心の組織(International Pemphigus Pemphigoid Foundation)がある。日本では久留米大学医学部の橋本隆先生中心の患者さんの会がある。今のところ東京には天疱瘡の患者さんを中心にした会は他にはない。

 

  • 天疱瘡とは

天疱瘡は自己免疫疾患の一種である。自己免疫疾患とは免疫が自分の身体を攻撃してしまう疾患で、昔から膠原病、リュウマチ、などが知られている。これらは全身性であるが、そのほかに色々な臓器に特異的な自己免疫性疾患がある。天疱瘡は皮膚に対して自己免疫が起きる。

   免疫とは本来、ウィルス,細菌などの外敵を排除するための抗体を作る仕組みである。液性免疫と細胞性免疫とがある。

   液性免疫はB細胞が抗体を産生する。天疱瘡では自分の身体の一部であるデスモグレインに対する抗体を作る。

   細胞性免疫はT細胞が担っている。臓器移植の際の拒絶反応の主体である。

      人間の身体ではB細胞、T細胞が上手く協調して働いている。

天疱瘡はB細胞が作るIgG抗体が自分の身体を攻撃してしまうもので、細胞性免疫は正常である。

デスモグレインは表皮細胞同士を接着(のり)させる働きがあるタンパク質である。

  尋常性天疱瘡ではデスモグレイン3(Dsg3)に対する抗体ができる。

  落葉状天疱瘡ではデスモグレイン1(Dsg1)に対する抗体ができる。

 

 天疱瘡抗原のデスモグレインはデスモゾ−ムという細胞接着装置にある。デスモグレイン抗体はこのデスモグレインと結合するにより表皮細胞の接着を傷害する。

 ウイルス感染症では免疫によりウイルスが除去されると免疫反応も収束するが、デスモグレインは正常な体の一部として細胞が産生され続けるので、デスモグレインに対する抗体生産は長期間続くことになる。

 

尋常性天疱瘡は主に口腔内に水疱(びらん)が発生し、そのため飲食ができなくなることがある。半数位の人では皮膚にもできる。

落葉状天疱瘡は皮膚のみである。

 

 

2.治療法・・・悪いことをするIgG自己抗体を除く又は減らすことが目的となる。

 

  1964年 天疱瘡が自己免疫疾患であることが判った。

  1991年 抗原がデスモグレインであることが判った。

  1997年 エライザ(ELISA)で血中の抗体価を測れるようになった。

 

  • 血漿交換療法およびIVIG療法

血漿交換療法は悪いことをするIgG自己抗体がある血漿を体外透析により入れ替える方法で、IVIG療法(大量免疫グロブリン静脈投与療法)は逆に大量の正常なIgGを入れて抗体を薄めてしまう方法である。即効性であるが、新たに悪いIgG自己抗体が作られるので効果は一般的に一時的である。

  • 免疫抑制剤投与およびステロイド投与

免疫抑制剤投与はIgG自己抗体を作るB細胞およびT細胞を減らすのが目的であるが、薬剤(イムラン、サイクロスポリンなど)を投与してから効果が出るまでに時間がかかり、遅効性である。ステロイド投与は即効性である。症状の程度により両者を組み合わせる必要がある。

  • 理想的には、100万分の1個程度存在する悪いB細胞、悪いT細胞を見つけて、選択的に除去できるとよい。選択治療法を開発するために、日夜研究が続けられている。

 

3.ステロイドの利点・欠点

利点・・・もともと自分が作るホルモン。合成したものを投与する。効き目が早い     (2、3日以内)。量を調整できる。

欠点・・・免疫を抑える以外の作用がある。

     副作用:糖尿病、胃潰瘍などになりやすくなる。

ステロイドは初めに大量を投与する必要があるが、副作用があるので、できるだけ副作用の発現を抑えながら効果が最大限になる量をきちんと決める必要がある。ステロイドの量は、成人の一日の産生量に近い5 mg程度に減量できることを目標とする。

 

4.天疱瘡の治療の将来の展望

なぜ自己抗体ができるようになったのかを知る必要がある。そのためには症状がでる前の状態を知りたい。患者数は限られている。

マウスでは天疱瘡ができるモデルができている。悪いIgG自己抗体を作るB細胞、T細胞を見分ける方法を研究している。

 

5.質問コーナー

 

Q: 天疱瘡で死亡することあるか?

A: ステロイド治療が始まって以後に、

   天疱瘡による症状で致死的になることはほとんど無い。

 

Q :ステロイド投与の副作用は?

A: 副作用の種類は人により異なる。高用量のステロイド投与期間が長いと副作用が

   出やすくなるのでなるべく早く天疱瘡の症状をコントロールできることを目指し、

   最終的に10 mg以下で症状がない寛解状態を保てるようにする。

 

Q: 将来的にステロイドをやめられるか?

A: ステロイドを中止したことにより再発率が高まるか否かの臨床研究は、

   医師も患者も中止した患者さんとしていない患者さんを知らされない

   二重盲検試験をすることは難しい。  

   ★天谷先生の経験では、抗体価が陰性になった患者さんでも、

    ステロイドを中止した後に再発をした症例が複数存在した。★

 

Q: 再発を防ぐ方法?

A: 生活の上で無理をすると再発することがある。

   ステロイドにより食欲が増進することがあるが、食べ過ぎないようにする。

 

Q: 再発したときには?

 A: ステロイドを倍量程度に増量する。他の療法を組み合わせることがある。

 

Q: 食べ物の注意点

 A: バランスの良いものを食べる方が良いのは健常者と同じ。

    硬いものは避けたほうが良い。健康食品は成分や効果が

    きちんと示されていないものが多いので頼らない。

    

Q:  温泉の効果は?

A: 温泉自身で治ることはないがリラックスという意味で良いかもしれない

 

Q: 紫外線(太陽光線)は?

A: 適度に当たるのはよい。光線療法はない

 

Q: 歯科治療や手術を受けてもいいか?

A: 歯科医とよく相談して、天疱瘡であることを知ってもらった上で判断する。

 

    

Q: 天疱瘡は稀有な病気なのか?

A: 国認定の特定疾患なので全国で集計しており4,000人位、

  類天疱瘡はその4, 5倍くらいいると推察されている。

  慶應病院では、150人以上の天疱瘡の患者さんが通院している。

 

Q: 天疱瘡は完全治癒するか?

A: 治癒の定義が難しいので、完治というより寛解という言葉を使用している。

 

Q: どういう人が天疱瘡になりやすいか? 

A: 答えはまだ判らない。

遺伝子を完全に読み解けるようになれば判るかもしれない。

 

Q: 天疱瘡でガンになりやすいのでは?そのときにガン治療ができるか

A: 天疱瘡にかかったことで、でガンになりやすくなるということはない。

  天疱瘡の稀な病型で、腫瘍随伴性天疱瘡というのがある

 

Q: 抗体数値がどのくらいになったら安全か?

A: 人によって違う。その人で数値がよくなったか、症状がどう変わったかを判断する。

  なお、最近までは昆虫細胞で作成した組換え抗原を使用して測定していが、

  今後はほ乳類細胞で作成した組換えデスモグレインを使用して測定するようになる

 

以下省略